東京雑感   赤門ばくぐったじゃ 2010.4.15


「人気スポットなんだ」

 東京大学本郷キャンパスを歩いた。新学期がスタートしたばかりだが、学生とは明らかに違う人たちがいて、キャンパスの象徴である安田講堂(写真1)の前で記念撮影をする光景が見られる。

 中高年の団体だったり、女性グループ、週末には家族連れに高校生らが加わって開放的な雰囲気。
 それもそのはずで、構内は一般開放され都内でも有数の人気スポットになっているのだ。

 知る人ぞ知るで、情報を寄せてくれたのは弘前市東目屋出身の三上貞作さん。県人に書いていただいている本紙のエッセー「望遠郷」の昨年度メンバーで、毎回、東京支社に原稿を届けてくれた。
 三上さんは奥さんと悠々自適の年金暮らしで、現役時代は有能な営業企画マンとして幾度も海外渡航するなど人生経験が豊富。現在は「体をもて余して」(三上さん)本郷キャンパスで週何日か働いておられる。

 「日本一ぜいたくな大学」「学生は1万人以上」「世界97カ国の留学生がいる」「レストラン、喫茶店などが20店舗以上あって近所の主婦が食べに来ている」など、三上さんから断片的に聞いて興味が膨らんだ。
 野次馬根性はなおらない。三上さんの「紅葉の時期がいいよ」のアドバイスもうわの空だった。


「赤門と正門は別なんだ」

 日本の最高学府といえば語弊があろうが、旧帝大時代から日本初の近代的な大学として名をとどろかし、国益を担うべく多くの人材を輩出してきたことは論をまたない。

 東大の代名詞ともいうべき赤門(写真2は正門とは別で、どちらも本郷通りにある。立て札に赤門の由来が記されている。旧加賀屋敷の御守殿門で、文政10年(1827年)に加賀前田家の藩主前田斉泰に嫁入りした徳川11代将軍家斉の息女溶姫(やすひめ)のために建てられたとある。

 大名家に嫁いだ将軍家の子女が居住する御殿を御守殿と称したもので、朱赤に塗られたこの門で溶姫やお付きの者を迎え入れたのだろう。
 切妻作りで左右に唐破風の番所を備えるなど往時の姿そのままに重厚で、国の重要文化財に指定されている。


「キャンパスは広いじゃ」

 赤門から入ると、赤門総合研究棟、史料編纂所などレンガを外壁にした古めかしい建物に目がいく。一方で、長さ100bものコンクリート壁とガラス張りが特徴の近代的な建築物がある(写真3)。手前はカフェ。福武ホールといってシアターがあり、コミュニティースペースで学術研究が行われている。

 福武ホールのコンクリート壁を左にして正門に向かう。正門からは正面にイチョウ並木があって、その向こうに安田講堂という深遠な光景は絵になる(写真4)。並木の左右に建つゴシック式建築の法文1号館と2号館の通路がユニーク(写真5)。壁に幾つもの掲示板が並べられキャンパスらしい雰囲気。

 安田講堂の前に立った。学生運動が激しかった1960年代。大学解体を掲げた過激派学生と機動隊が衝突した東大安田講堂事件は69年に起きている。当時、自分は高校生でテレビの映像が記憶にあるが、時代の変遷を痛感して特に感慨はなかった。
 学生闘争で荒れた建物内部は修繕され、現在はガイダンスなどに利用されている。入学式は武道館だったが、卒業式は先月ここで行われている。
 

「昼時の学食は混むんだ」

 安田講堂前広場の地下に中央食堂があって学食目当ての人が多い。昼時は広場こそ閑散としても地下は大混雑。すべてセルフサービスで、食券を求める人が列をなしている。食券自販機を置いているが、自販機があるのを知らなかったり、メニューが豊富なため食券窓口で購入する方が安心なのだろう。食券を持ってさらに階下に。

 地下は楕円形のようにくり抜かれている。一部吹き抜けで食堂ホールは地下2階に相当するのだから天井が高く、食膳コーナーを中心に400 席以上のいす、長テーブルが放射状に配置されている。
 各種定食やそば、ラーメンと受け口が6カ所あって、目的の窓口に並ばなければ食にありつけない。
 学食だけに定食は400 〜500 円。お勧めは何といっても東大名物「赤門ラーメン」(380 円)。ピリ辛でひき肉入りのあんかけ麺で、モヤシやキクラゲが入っている(写真6)

 ここが2度目の自分は豚丼にみそ汁を豚汁に替え、豆腐をつけて420 円。安くてうまいと舌鼓を打っていたら、隣席の学生カップルが1杯の赤門ラーメン(380 円)とコンビニおにぎりを2人で分け合って食べている。
 不況で大学生の仕送りが減っているとの報道がよぎったが、親密な2人の様子を察して見て見ぬふりをした。


「いろんな人がいるんだ」

 時間があれば総合図書館に入りたかった。以前訪れた時は土曜だったので、学生以外は入館できなかった。平日なら一般もOK。
 安田講堂の裏手に生協(売店)、ATM(現金自動預払機)コーナー、コンビニがあって、喫茶店があちらこちらに散見される。
 古い建物に近代建築が覆い被さるように隣接した工学部2号館(写真7)には、ファーストフードや都内の高級料理店が入居している。
 百聞は一見にしかずで、週末は乳母車のそばで若い主婦らが談笑したり、芝で子供を遊ばせる家族連れもいて、住民らの憩いの場になっているのを目の当たりにした。都民のための教養講座も開かれているようでキャンパス開放の意義は大きい。

「行ぐ前の東大という堅いイメージは吹っ飛んでしまった。んでも、キャンパスで犬を散歩させている女性や老人と遭遇した時は『そこまでやるが』とあ然としたじゃ。いいんだべね」

万年青年Y

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