東京雑感   宇宙船内で何を想うべ 2010.2.25


「ミッションは撮影だ」


 これは丸の内にある国際東京フォーラムのガラス棟最上階(7階)からの眺め。ラウンジがあるのだが、上部のわん曲した鉄骨群がハーモニーを奏でるように優雅で美しく、雄大なスケールに圧倒される
(写真1)

 ガラス棟は船をイメージしている。地下1階ロビーから地上7階まで吹き抜けになっている。天井までの高さが60b。それはそれは巨大な空間だ。見下ろすとロビー中央にある円形のインフォメーションが見える。

 ガラス棟は2本の大柱で支えられている
(写真2)。1997年のオープンなので今さらだろうが、建物好きな田舎者にはたまらない。目の当たりにして改めて近代技術の粋を思い知らされた。
 ラウンジは天井、壁面が全面ガラス張りでまばゆく、地下ロビーのけん騒も7階までは届かない。空中廊下に人影はなく、静寂の中でダイナミックな異空間を体感して空想の世界に浸った。
 己に課したミッションは写真撮影だが、いずこの惑星の宇宙船に潜入したような気分で、異星人が突然現れないかどぎまぎして、しばし時を忘れた。


「規模も半端でないや」

 東京国際フォーラムは日本を代表するコンベンションセンターの1つ。ガラス棟のG棟をはじめ、ホール棟であるA棟からD棟の合わせて5棟に7つのホール、展示ホール、それに33の会議室、レストラン、カフェ、売店、ミュージアム等を備える。
 
地下1階のガラス棟ロビーは玄関口ともいえるエントランスホールで、AからDまでのホール棟と中央ブリッジでつながっている
(写真3)
 ホール棟は独立していて、地上広場や丸の内仲通りに出入り口が設けられている。だからホール棟を利用するのにわざわざガラス棟を通することはない。
 なぜならガラス棟に入るとエスカレーターで地下1階のロビーに降りるしかなく、遠回りになる。都会人にありがちなあくせくとかでなく、規模も人も想像を超えていて時間がかかるのだ。

 今月9日にパナソニックが4月下旬に発売する3次元(3D)テレビの新製品発表会がホールB7であった。エスカレーターを乗り継いだが、各階のエスカレーターは長蛇の列。会場は何百人ものマスコミ、広告媒体関係者であふれた。
 G棟以外のホール棟にエレベーターは見当たらない。案内されておらず、エスカレーターと階段を利用するしかないので混むのはなおさらのこと。時間に余裕が必要だ。


「道灌、知ってるべさ」

 ガラス棟の地下ロビーがエントランスホールなのには訳がある。東京国際フォーラムは南は東京駅、北が有楽町駅の地下コンコースと連絡していて、電車利用の来館を見込んでいるのだ。
 ロビーにはインフォメーションのほか、イベントや会議の会場、開始時間を案内する電光掲示板があって、その日の館内スケジュールが目白押し
(写真4)
 施設規模は建築面積21,000u(敷地面積27,000u、各棟各階フロアを合算した総延べ床面積は145,000uに及ぶ。東京ドームが付帯施設を含め49,000uなので、実に東京ドームの3倍弱。想像以上というのが分かろう。 

 ところでガラス棟のJR東京駅・丸ビル側入り口に太田道灌像が設置されている
(写真5)。元来ここは旧都庁舎跡で、江戸開都500 年を記念して建立された。50年以上前だが、長らく都庁舎のシンボルになっていた。
 もっとも銅像はそれ以前にあった。戦時中に金属類回収令で供出しており、1956年に復元されたのだ。以来、旧都庁舎解体、東京国際フォーラム建設を経て、12年前にゆかりのこの地に復帰した。
 江戸城を築いたことで知られる太田道灌。像は江戸城(皇居)に向けて建てられている。


「昼時は屋台村がいいや」

 印象的なのが地上広場。ガラス棟と各ホール棟の間にあり、地下と同様、広場もまた東京駅と有楽町駅を結ぶプロムナードになっている。ケヤキ、カツラの木が植えられ、春になれば緑のパブリックスペースとなる。
 昨年春、ここで催される大江戸骨董市の様子を紹介したが、有楽町駅と直結するなど利便がよいことから終日多くの人が往来する。

 昼時は移動販売のケータリングカーが並んで屋台村ができる。イタリアンや、アジアンなどエスニック風味の料理が女性に人気で好評を博している。
 昼休みになると近くの丸の内オフィス街からサラリーマンやOLらが利用する(写真6)。野外なので冬場は寒いが、それでも車後方の飲食スペースや樹木の周りのベンチで食事をする光景が見られる。
 ランチ難民といわれるくらい、丸の内では昼時に商社マンらの胃袋を満たす店の絶対数が足りない。舌の肥えた彼らにとって屋台村は欠かせず、野外で食事をすることに抵抗がないようだ。


「中性的な魅力があるんだ」

 運がよければヘブンアーティストに会える。訪れた時は有楽町駅側でギタリストのダニエルが演奏していた
(写真6)。長身で見とれるほどの美形。繊細な演奏が彼のもち味で、女性ばかり10数人が足を止めて聴き入っている。
 上野公園でダニエルを見たときは聴衆に囲まれていたが、勤め人が多い東京国際フォーラムでは仕方がない。それでも女性たち熱心で「アルハンブラ宮殿の思い出」など、ロマンチックな名曲に酔いしれていた。

 東京国際フォーラム向かいのビックカメラ有楽町店に寄った。バンクーバー冬季五輪の男子フィギュアのフリーの演技が行われていて、結果を知りたかった。
 ところがどうだ。何十台も展示用テレビがあるのに、五輪中継にチャンネルを合わせているのは1台で、そこは黒山の人だかり。どこかの放送局のクルーが脚立に上って撮影している。
 客が別のテレビで五輪中継に合わせると、従業員が「申し訳ありません。チャンネルを変えさせていだだきます」と元の番組に戻したのには落胆した。

「男子フィギュアは録画で再三にわたって見だがら。それにしてもガラス棟のラウンジに上がった時は感動したじゃ。メダルを取った高橋大輔選手の演技と同じぐらいにさ。宇宙船を連想した時は地球防衛軍の一員になった気分だったんだ。めぐせはんで内緒だや」


万年青年Y




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