「花冷えで花遅いや」
花の季節。弘前公園の桜が日本一と自負してやまないが、都内にも劣らぬ桜の名所が数ある。千鳥ヶ淵、隅田川、新宿御苑、靖国神社あたりが代表的な花見スポットか。春爛漫の下では花見をする人でごった返す。
自分が訪ねたのは目黒川の桜。
住んでいる池尻大橋の玉川通り(国道246 号)から世田谷、目黒、品川の3区を走って東京湾に流れる延長8`の都市河川。沿線住民らの癒やしの空間になっている。
池尻大橋から目黒駅までの約3.8`にわたって両岸に約830本のソメイヨシノが植えられていて、都内でも名所の一つ。
東京の開花は21日だった。
平年より7日、昨年より1日早かったが、22日以降は肌寒い日が続き、思ったほど花が進んでいない。
25日現在、目黒川の桜は半数以上がつぼみで、進んでも2分から3分咲き程度。こんな肌寒い状態では来月に見ごろがずれ込むだろう(写真1)。
「祭りムード感じるじゃ」
桜花のにおいが好きだ。朝晩が分かりやすいが、特に朝。朝露の蒸発とともに甘酸っぱい香りが発散される。
梅とかサクランボの果実のような甘酸っぱい香りで、本社時代に朝早く弘前公園の外堀を車で走ると、開け放った窓からむせかえるような香りが飛び込んでくるのだ。
目黒川にそれを期待したが、つぼみが多いのではしようがない。
25日だったが、池尻大橋から中目黒までを散策した。時間は午前6時。
そこはみどりの遊歩道西郷山・目黒川コースになっていて、ジョギングや散歩する人とすれ違う。愛犬を連れている人も。
近くで小鳥がさえずっている。さわやかな朝の光景だ。
川面に桜が自由に枝を伸ばし、満開なら花のトンネルだろう。電球の飾り付けがなされ、いやがうえにも祭りムードが高まる。
沿線の自治会が近場の公園で桜まつりを催す。川べりの柵にチラシが張ってある。中目黒駅前商店街振興会の桜まつりは4月5日。会場が目黒川と蛇崩川との合流地広場で、出し物の一つに「津軽三味線と民謡」と印刷されている。出演者は分からないが、盛り上がるだろう。
「川の歴史があるんだ」
途中に記念碑があった。昭和の初めに行われた目黒川初期の河川改修に合わせて地元の有志が桜を植樹した記念に建立したのだとか(写真2)。
改修前の目黒川は蛇行と浅底のため大雨のたびに氾濫し“暴れ川”と称された。江戸時代には体を清めるための水垢離(みずごり)が行われたことから、こりとり川とも呼ばれたらしい。
上流の池尻大橋付近には江戸後期から明治にかけて水力を生かした水車が造られ、精米、製粉、雑穀加工から薬種の精製などが行われたり、下流域ではかんがいの水源、運河として利用された経緯がある。
暴れ川、こりとり川などの俗称とともに、時代をさかのぼれば川を中心とした庶民の生活、暮らしぶりが想像できる。
改修で永久河川に生まれ変わったからといって、問題がないわけではない。雨天時に下水が流入するらしく、夏場は悪臭が漂う。
都や目黒、品川両区は都(区)民が水辺に親しめるよう清流復活事業を展開、水質改善に乗り出してもいる。
「いろいろ発見するや」
中目黒界わいは沿線におしゃれなカフェやブティックが張り付いていて、落ち着いた雰囲気。前に入った大衆割烹になぜか坂本龍馬のパネルが掲げてあった(写真3)。その時は夕暮れ時で気づかなかった。
遊歩道は駒沢通り、目黒通りで寸断される。目黒通りでストップした中目黒で折り返し、時間にして1時間半余りの朝の散策。川べりの柵には地元の小中学生の川柳や短歌、ごみ持ち帰りの啓発ポスターも張ってあって楽しめる(写真4)。
起点の池尻大橋では首都高の大橋ジャンクションの建設工事が行われている(写真5)。
3号渋谷線と中央環状線を結ぶもので、地上約35b、地下約36bで高低差が71bある。 ループ部分は4層で1周約400b。国立競技場と同じくらいの広さだとプレートに書いてあった。2013年に全面供用されるが、環境に配慮してループ屋上を緑化公園にすることでも注目を集めている。
年度末。気がせく時期だが、目黒川沿いの早朝散策は気分がよかった。マイナスイオンに満ちていた。都内のこうした憩いや安らぎの空間は大切にしたい。
「川沿いの桜も風情があってよがった。つぼみが多かったけど、去年、一昨年と満開を見でるんだ。住めば都と同じで、身近な桜が一番ってことでどんだべ。満開になったら写真を追加するはんで」
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