東京雑感   上野公園さ行ってみへ 2009.1.29

 「大道芸やってるんだ」
 上野公園で大道芸が演じられている。演
じる場所は園内に6カ所あるようだが、何といっても人の往来が多い噴水池前広場がメーン。時に人だかりができる。
 そこはあるがままの空間。扇形のように人が取り囲み、その要で芸人がパフォーマンスを。笑いとペーソス、感動…。時代がどんなであれ、心からの笑いが見てとれる。
(写真1)

 東京都美術館での美術展取材の行き帰りに目にする平和で穏やかな光景だ。
 いろんなジャンルの芸人がいる。歌やミュージック、パントマイム、マジック、コント等々。
 彼ら、彼女らの多くは投げ銭、いわゆる観客の志で生計を立てている。それも終演まで観客を引きつけてこそ得られるもので、表情にこそ出さないが必死だろう。
 
 「素通りでぎないのさ」
 過日、噴水前広場に人が集まっていた。異様な雰囲気のBGMが流れ、黒づくめの4本足の
男が器用に歩き回っている。(写真2)
 行きすごそうとしたものの、長年身にしみついた野次馬根性が素通りを許さない。

 黒覆面に黒マント、黒のスーツ。椅子に腰をかけて足を組んだ。「開演10分前」と書いたスケッチブックが椅子に立て掛けられている。
 すると後方の衝立の陰に隠れて、サングラスと帽子をかぶって登場。スローな動作で観客を目がけて迫り来る様は怖くもあり、映画「マトリックス」を彷彿とさせる。

 また衝立にこもって素顔をさらして現れると、スケッチブックをめくって「本番」の文字。観客の期待を一身に浴び、右足を肩まで上げようとするができない。誰が見ても体が硬くて無理そう。
 そこでスケッチブックを「開演5分前」に戻して、今度は衝立の奥でストレッチ。そこでは両足を背中から肩まで上げたり、180度開脚するなどやりたい放題。
 作り物の2本足を使っているのが見え見えで、観客から笑い声が起きる。両足を衝立に乗せて両手を上げる余裕も。(写真3)

 
 「心から楽しめたじゃ」

 そこで再度「本番」。パントマイムで壁をつたったり、スーツケースが急に石のように重くて戸惑うなど、ユーモラスな仕草が大受け。
 この後は観客の1人を誘って、テーブルと椅子だけのにわか仕立てのレストランに招待。一輪挿しに花がないことに狼狽してみせ、スカーフを一瞬のうちにバラに変えるマジックで驚かせる。
 そんな調子で何もない皿にマジックで料理を盛ってみせた後、テーブルクロス引きをするという。(写真4) 2、3度ためらい、観客をはらはらさせながら見事に成功し、拍手かっさい。
 少し妖しげなブラックユーモアたっぷりのストリートパファーマンス。声は全く発せず、拍手や投げ銭なども紙で催促。(写真5) たちまち10数人が近寄って投げ銭箱にカネを投じた。
 硬貨が多い中で、決して身なりがいいとは思えない初老の男性が千円札を入れたのを見た。人は見かけで判断してはいけない(反省!)。申し訳なかった。
 ともはあれ、素晴らしいパフォーマンスで、大道芸の神髄を垣間見た思いだった。

 「都知事の英断だべさ」
 なぜに上野公園で大道芸かと疑問に思われるだろう。
 これは東京都が展開しているヘブンアーティスト事業の一環。都民に気軽に芸術文化にふれる機会を提供することを目的に、2002年に石原都知事の肝入りで始まった。
 大道芸人、パフォーマーらの天国という意味で、都が実施する審査会に合格したアーティストだけに活動場所を開放している。彼(彼女)らにとっても芸を磨く絶好の機会であり、それで生計が成り立つのであればいうことはない。
 都が指定した活動場所は地下鉄駅や公園、公共施設の一角などで、上野公園をはじめとした都内9エリアに50カ所近くある。
 といっても指定された場所、すべてで大道芸が行われているわけではない。曜日や時間帯によって混み具合が違うし、反応の鈍い所もあろう。
 そういうことでは上野公園はヘブンアーティストのメッカなのだ。
 天気のよい日は噴水前広場の隅に芸人が待機していて、出番を待つ光景が見られる。バッティングしないよう気遣ってもいる。
 1月現在、都の審査会に合格した大道芸人、パフォーマーは319組(人)いる。上野公園は人気だから、場所とりはし烈だろう。

 先ほどの大道芸人、彼の芸名はチクリーノ。ピーターフランクルのジャグリングをテレビで見てから大道芸人にあこがれ、6年前に脱サラしてこの世界に飛び込んだ。すぐに頭角を表し、活動2年目の「福山大道芸2004」でグランプリを獲得するなど、輝かしい賞歴を持っている。
 オリジナリティーと意表をつく展開で笑いを誘う。この日もベストパフォーマンスを見せてくれた。
 書かなかったが、パントマイムで持ち上がらないスーツケースを業を煮やしてたたいたら拳が赤く腫れ上がり、目が飛び出んばかりの痛い表情を演出。腫れた拳も、飛び出す目玉も作り物だが、一瞬の早業で公演のハイライトだったように思う。自分は笑いの渦に引き込まれてシャッターチャンスを逃した(申し訳ない)。
 このコーナーで紹介したい旨、チクリーノ氏にメールで伺いをたてたら快諾してくれた。若くて才能を感じる。冬は寒くて大変だというが、頑張ってほしい。
 ほかにもアコーディオンを演奏しながらオペラを得意とするコミカルな東洋の歌姫ことみぎわ、ため息をつくほどに美しく繊細なギタリスト・ダニエルらストリートミュージシャンもお薦めしたい。

 「仕事さぼって行っているんでねがって? それは真っ赤な誤解だべさ。真っ赤なうそでねがって? 素晴らしい大道芸人たちに免じて許してけろ」
            
万年青年Y
 

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