「歌碑があるんだじゃ」
故フランク永井さんが歌った「有楽町で逢いましょう」の歌碑が有楽町にある（写真１）。
昭和３２年の曲だったそうで、発表から５０年が経過して今年７月に有楽町マリオン前広場に造られた。宮城県出身の永井さんにちなんで、伊達冠石が使われている。
永井さんの訃報が報じられたのが今月初め。目ざとく見つけた人がカメラで歌碑を撮影する場面に出くわした（写真２）。
♪あなたを待てば 雨が降る
濡れて来ぬかと 気にかかる
ああ ビルのほとりのティー・ルーム♪
小春日和に誘われて口ずさんだ。
駆け出しのころ、社の先輩がスナックなどでよく歌った。先輩らの軍歌、歌謡曲に対して、自分はフォークソング。フォーク世代なのだが、「辛気くさい」「女の腐ったような」などと形容され、不評だった。
要は下手だったということ。社歴も長くなって、カラオケがうまくなるため随分と“授業料”を払った気がする。場数を踏んで、歌い慣れれば少しは上手になるというもの。
「あずましくなったや」
戦後の復興期。槌音が響いて高度成長に突き進んでいった昭和３０年代。低音が魅力だったフランク永井さんの歌声が耳に残る。
歌は世に連れというが、時代や世相を反映した曲は人々の心に深く刻まれ、永遠の輝きを
放つのだろう。名曲といえる。
メロディーが記憶の扉を開ける。有楽町にはどぶ川があってヤナギが風情を醸した。ゴルフの師匠格である他社の先輩支社長が当時の様子を話した。屋台が多かったようだ。
現在の有楽町は駅前再開発で変貌を遂げている。東京駅の隣で銀座の玄関口であるＪＲ有楽町駅。中央口から出ると開放的な広場に目を見張る。
駅前は乗降客らでごった返すのが普通だが、ここは往来の人を包み込んでかつ余りあるような広い空間が心地よい（写真３）。
反対の西口方面には東京国際フォーラム、帝国劇場があって、サラリーマンばかりが目立つ新橋とは違い、せわしさがない。銀座に近いせいだろうか。
ガードの手前に靴磨きが３人並んでいた。いずれも客を簡易いすに座らせ靴を磨いている。駅寄りに陣取るのが師匠格で料金は９００ 円、あと２人は弟子で８００ 円とか。靴磨きも修練を積むんだね。
「歌詞からとったんだ」
再開発事業の核施設である有楽町イトシアは地上２１階、地下４階の商業複合ビル（写真４、左側の建物）。下層階に丸井が進出しているが、高級ブティックばかりでため息が出る。
イトシアを中心に書店、カフェ、周辺に映画館が多い。宝くじで１等が何本も出て当たると評判のチャンスセンターも近い。
ところで有楽町の象徴イトシアだが、「有楽町で逢いましょう」の歌詞からネーミングをとったことで知られている。
１番の歌詞。続きは
♪雨も愛しや 唄ってる 甘いブルース
あなたと私の合言葉
有楽町で逢いましょう♪
愛しやがそれ。うけ売りだが、愛しいに場所を表す名詞語尾のｉａをつけたそうな。
「大岡裁きやってたんだ」
ところで、イトシアが建設された付近は江戸時代に南町奉行所があった。造成中に奉行所跡から穴蔵が発見され、中から伊勢神宮の神官が大岡忠相（ただすけ）の家臣に宛てた木札が
出土したという。
広場からエスカレーターで地下（１階）に下りると、そこが休憩所になっている。
説明板に、遺構両側の木製ベンチに江戸時代の水道管（木樋）を、向かいの石のベンチは奉行所の石組材を再利用したと記されている。
行政は時に粋なはからいをする。遺構を知ってか知らずか、女子生徒らがベンチに腰を下ろしてくつろいでいる（写真５）。
休憩する人たちはメールやおしゃべりに夢中。貴重な遺構も興味がなかったり、価値観を分からないとただのベンチでしかない。でも役に立っているのだから、狙い通りなのだろう。
「銀恋の碑もあるんだ」
有楽町で歌碑を探す途中で「銀恋の碑」を見つけた（写真６）。カラオケのデュエットで人気の「銀座の恋の物語」の歌詞が掘られていた。出掛ければ何かを発見する楽しさがあって、東京探訪は興味が尽きない。
先日、このコーナーでお世話になっている長野県上田市在住のジャーナリスト工藤浩之さんが支社を訪れた。
有楽町駅から来られたようで「有楽町も随分と変わったんですね」。「そんだのさ」と相づちを打った。
自分はいまだに方向音痴に悩んでいるが、東京暮らしも板について様になってきたろうか。夏場だったが、銀座松屋の前を歩いていた時のこと。自分は出勤途中で急ぎ足だったが、中年のおばさんらがすれ違いざまに「銀座の男は違うわね」と言ったのが耳に残った。
「自分のごとだべか（自意識過剰？）。でも言いたがったじゃ。『わきゃ津軽だね』って」
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