「変人でないはんで」
「ゴジラ?」。寒さで足早に行き交う人であふれる数寄屋橋交番前で、若い警察官が素っ頓狂な声を上げた。
自分が尋ねたのだ。この辺にゴジラがあるはず、正確にはゴジラのモニュメントのある公園を知らないかと。
首をかしげる後ろから、中年の警察官が出てきて「ありますよ」と応じた。良かった。怪獣オタクと思われるならまだしも、若いお巡りに変人扱いされてはたまらない。
初めて見た時は衝撃だった。東京にこんな場所があったのかと感動もした。
大都会の雑踏。コンクリートジャングルとはいえども、都市公園法に基づいて小公園、緑地など安らぎの空間が散在しているのは1年10カ月の東京生活で感覚的に分かってはいるが、ここには驚いた。
子供のころに夢にまでみたヒーローがいる。自分にとって過去にタイムスリップできる特別な空間のように思えた。
「方向音痴なんだじゃ」
そこは日比谷のシャンテ前公園というらしい。モニュメントとはいえ、実に精巧でリアルに造られている。
新年早々、帝国ホテルで広告業界、通信社、大手広告代理店と新年会が3日連続であり、支社への帰りに偶然に通りかかった。
喫煙所がそばにあって、モニュメントの前でいたく感動している自分に、スモーカーからちらっと違和感のある視線を浴びた。
後日、日比谷方面に出掛けた際にいくら探しても見つからない。その時は公園の名称すら知らなくて、冒頭の挙に出たのだ。
交番で地図を見せられて分かった。記憶違いで、ゴジラ公園がJR線を挟んで日比谷側にあるのに、自分は銀座側を探し歩いていた。
悲しいかな、どうしようもないほどの方向音痴なのだから致し方ない。
「復活しないべか」
映画(東宝)の世界ながら、ゴジラは1954年にビキニ島の核実験によって起きた第5福竜丸事件をきっかけに生まれた。
巨大モンスターが突如として街に現れ、人々を震撼とさせる。ビルなどを次々に破壊し、自衛隊が迎撃するが…。
幼い自分はただただ怖かった。出始めこそ悪者だったが、そこは怖いもの見たさで。途中から地球侵略をもくろむ異星人の刺客、キングギドラを倒すなど地球の救世主としてのイメージに変わったり、怪獣らしい気まぐれなところに愛着を感じたりもした。
一時代を築いたヒーローも、記憶違いでなければ生誕50年を機に引退したはず。といっても制作映画の終了宣言とかで、復活の可能性がないとはいえないらしい。
でも、ハリウッド映画「GODZILLA」で、キャラが変わったゴジラを見たときは複雑な思いだった。発音は「ガッヅィーラ」。それはそれで面白かったが、イメージが崩れ、小さいころから怪獣映画を見て育った自分にはまったくの別物だった。
「幼稚? 別にいいべさ」
ゴジラのモニュメントで思い出したことがある。
入社して間もなく陸奥新報社の近くに気に入った喫茶店があって、昼休みや勤務後などに利用した。カウンターだけの店で、主婦であることを隠さない素人ママさんが趣味でコーヒーを
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映画スターの手形レリーフも多い
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煎れていた。何年か後に店を閉めるという時にプレゼントされたのがゴジラの卓上ライター。それは結構気に入っていて、自宅のサイドボードに置いてある。
いい歳なのに、幼稚さ、精神年齢の低さを吐露してしまったが、好きだったものはしようがない。
怪獣で好きなのはほかにガメラ、モスラ。テレビ漫画では鉄腕アトム、鉄人28号。「弾よりも速い」と高速で走るエイトマンもはやったね。
ウルトラマンは年代が下になる。今にして思えば5歳年下の弟は怪獣に興味を示さなかったように思う。兄にあきれていたかも。
ところで、シャンテ前公園には往年、あるいは現役で活躍する映画スターの手形のレリーフが埋め込まれている。女優陣の手が意外に小さい気がする。
映画好きのオールドファンには必見の場所、いや名所と思うのだが、あまり知られていないのか、自分が訪れた時には興味を示す人はいなかった。
「変な奴だと思われてもいいばな。童心に帰れる空間なんだ。どう?行きたぐなった?」。
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