東京雑感   めんこい家やーい 2007.6.28

 「30年以上前だもの」



 世田谷には個性的な住宅が多い。三宿から下馬、上馬、野沢―。昔、学友たちが住んでいた三軒茶屋近辺を歩いた
国道246号から路地に入っていくと、閑静な住宅街が広がる。
 都営住宅団地や公園を過ぎて迷路のような道を進んでいくと、おしゃれなマンションやアパート、それにしょうしゃな住宅が目に飛び込んできて足を止める。
 街区が形成され、家並みが続く。長野の学友が住んでいた野沢方面に向かった。薄暗いアパートで下手なギターでフォークソングをよく歌ったっけ。近くに畑があったんだけど…。時代が変わってそこでは学生時代の土地勘なんてなきに等しい。方向感覚を失って浦島太郎状態だった。

 「棟梁ならいいんだけど」
 建築士だった父の影響を受けて小学生のころから住宅に興味を持っていて、学生時代には都内をあちこち歩いた。時間をもて余していたから2、3時間歩きづめでも飽きないし、疲れなかった。
 途中、著名人の屋敷を偶然に見つけては小躍りもした。三木元総理の邸宅では道端にポリスボックスがあって警察官が駐在していた。思えば美輪明宏さんの住まいとおぼしき前を通ったことがあった。
 といっても、「黒蜥蜴」を思わせる文様の格子門に名字が書かれた簡素な表札が下がっていただけで、美輪さんのお宅か分からないままだけど…(違っていても災いが降りかかりませんように。『うぅぅえーぃ、やーッ!』)。 前世は大工だろうか?。棟梁なら思うような家が建てられるかも。

 「住宅フェチってんだべか」
 興味の対象は豪邸ではない。限られた狭い土地に建てられた個性的な住宅で、ユニークな家を見ると人様の屋敷とは思いながらも見とれてしまう。
 地価が高い都内では、30坪そこそこの土地に建つ家が珍しくない。境界が狭く隣家が肉薄する中で採光にも工夫が施され、家族構成やライフスタイルに合わせて間取りもフレキシブル(柔軟)であろう。
 思い込みが強いとは思うが、そんな小住宅は外観も一律ではなく美しいとさえ思えるし、建築家のセンス、住む人の個性を感じた時には心がときめく。
 そういえば、テレビ番組の「渡辺篤史の建もの探訪」はよく見た。建て主のこだわりが分かるし、それが面白い。今も放映されているだろうか。東京に来てからは見ていない。

 「建て坪計算したべな」
 今は建築資材がよくなって、高断熱・高気密・24時間換気と住宅の質が向上、また外材も求めれば容易に手に入るだろうし、資金が潤沢なら楽しい家が造れる。
 こうした住宅は用途地域によって異なる。
第一種住宅専用地域の低層住居地域では地下1階(半地下)に地上2階、中高層住居地域では3階建てが多い。敷地が狭いからだが、総3階、4LDKともなると建て坪は優に40坪を超え、小住宅とは呼べない。
 
 サツ回り時代、深夜に火災現場に走ると大概、他社の敏腕記者と鉢合わせになる。
原稿の締め切りが迫っている時は鑑識の結果が待てなくて、建て坪を計算し2人で確かめ合った。前と奥行きを指でなぞればおおよその平米が出る。自慢するわけではないが、警察発表と己の目測との狂いはほとんどなかったように思う。

 「ストーブ買ってさ」
 人様の家を随分と見てきた自分も10年以上前に小さな家を建てた。ロフトに吹き抜け、トップライト、ドマーニ(屋根窓、天窓)…。いろいろ夢を描いたが、現実は予算との兼ね合いで厳しいものがあった。
 それで、家族の息吹を感じる家にと、半吹き抜けの居間に階段を設けてFFストーブ1台で全館暖房をやろうと決めた。階段天井にプロペラを取り付け、二階の部屋のドア上部を開閉式にして暖気を循環、取り入れようと考えた。
 
 12月半ばの完成だったが、それから間もなく子供が風邪をひき、一向に熱が下がらない。慌てて個室用にストーブを買いに走った。高断熱・高気密に期待をしてのことだったが、雪国でひと冬をストーブ1台で過ごすのは少し無理があったようだ。
 

華やかに飾った野沢の商店街
樹木が歩道を覆う世田谷観音近くの
バス停(下馬3丁目)
セントラルヒーティングは暖かくて部屋の空気も汚れずいいのだが、敷設に約100 万、灯油代が月々2万円はかかると聞いて断念した。でも厳寒期には24時間ストーブをつけっ放しにしているし、給湯のボイラーも灯油だから月々の灯油代はそんなに違わない。オール電化住宅は初期投資はかかるが、選択肢の一つだろう。
 

 「街には発見があるんだ」
 ともあれ、学生時代以来の東京での住宅探訪はやはり楽しい。ただ学生のころと違うのは、住宅ばかりではなく周辺の環境が気になっていることであって、視野が広がっていることに気づいた。商店街や小公園、道路事情等々、興味が尽きない。

 野沢では街路灯の完成を祝って万国旗みたいに造花を華やかに飾った商店街があった。昔、何度も通ったようで懐かしい。

 驚いたのは民家の敷地から斜めに伸びた木が歩道をトンネルのように覆っていたこと。そこがバス停になっていて、日差しや雨から利用客を守るので伐採しないのだろう。歩道とはいえ公道なのだから、地域住民の要望に応えるかたちで関係機関が配慮したのか。面白いね。これからもいろんな街を見たいもの。「暇人だって? そったらごとねー。好ぎなんだ」。
万年青年Y
 

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