東京なりゆき通信2016 vol.9 熱海の海岸散歩する 2016.5.31

 5月中旬、静岡県の伊豆に出張がありまして、新幹線の接続時間を利用して熱海の海岸を散歩してまいりました。「♪熱海の海岸 散歩する 貫一、お宮の二人連れ…」。そう、明治時代に書かれた尾崎紅葉の小説「金色夜叉」で知られる熱海の海岸です。「金色夜叉」と聞いただけで、ほら、なんとも、もの悲しいバイオリンのメロディーが浮かんできませんか?


 まずは熱海駅から坂道を下って海に向かいます。最初はいい気分でしたが、だんだん暑くなるは、疲れてくるは…で、「やはりバスに乗ればよかったか」と後悔し始めたそのとき、なんとまあ、イメージとは全く違ったリゾート海岸が眼前に広がったのです。「熱海サンビーチ」というのだそうです。疲れがどっと吹っ飛び、年甲斐もなく海岸に向かって駆けだした私。もっとも、周囲には普通に歩いているとしか見えなかったでしょうが。


 ただ、散歩するにはあまりに暑過ぎました。全身汗だくで、首から下げたタオルを帽子代わりにしても直射日光が痛いぐらい。しかも、海岸を歩いてみたら、あと何もすることがありません。そこで、わずかな木陰で休んでいた家族に「貫一お宮の像はどこですか」と聞いてみますと、「あらま、そう言えばどこだっけ?」とキョトンとした様子。「ここら辺にはないから大通りなんじゃない」。アバウトな答えにも津軽衆らしく丁寧にお礼を述べ、海岸からバス通りへ。そしてようやく「貫一お宮」とご対面。



 有名な、貫一がお宮を足蹴にする像。ですが、何か違和感が…。明治時代の話とはいえ、女性を足蹴にするなんて…。で、よく見ると、そうした声に答えるかのような説明がちゃんとありました。物語を忠実に、切ない別れ、二人の心のすれ違いを再現したもの、決して暴力を肯定したり、助長したりするものではありません。さすが観光地。見事なフォローです。


 さて、そろそろ新幹線の時間です。帰りはしっかりバスに乗り、再び熱海駅へ。駅前の足湯で疲れを癒やし、仲見世でお土産を買い、新幹線に乗り込みました。東京まで1時間もかかりません。熱海って意外と近かったのですね。



 あれ以来、ふとしたときに「♪熱海の海岸 散歩する…」と口ずさむようになってしまいました。ちなみに初音ミクも歌っているのですよ。なかなかいい感じの「金色夜叉」ですよ。



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