嬉しい方言礼賛  門 脇 長 子


 皆さんはあまり気に掛けてはいらっしゃらないと思いますが、地方出身者には方言に対する劣等感がこびりついています。
私は女子大の入寮の日に、自己紹介で笑われて、穴に入りたい気分でした。
(実に65年前)

 テレビなどで、事ごとに津軽弁が揶揄されているのに、4月のある日、数学者でベストセーラー作家の藤原正彦氏が弘前大好きであることを知りました。
いわく


1. ジャガイモ大好きで家族からは「田舎趣味」といわれるが、信州田舎出身であることを誇りとしている旨。

2. 方言大好き、中でも弘前弁の詩の朗読をきいて、感動のあまり立ち上がれなかった。

3. 好きな読書で、腹がすいたころを見計らって、弘前の見目麗しい人が、ホクホクのジャガイモを持って来て、弘前弁で優しい言葉をかけてくれる、となればもう夢の世界、いやそれを超えた茫然陶然恍惚の世界だ。

というような方言礼賛に嬉しくなってしまった私でした。

 相撲出身の解説者舞の海あたりの戦後派になると、テレビやマスコミの力や教育者の関連で津軽の訛りはありませんが、私ども昭和一桁世代の頃は、きちんと師範学校を出られた先生で、立派な字を黒板に書かれるお方でも、発音はチト怪しく
  サススセソ タツツテト ハヘフヘホ
の上、日常単語がアイヌ語も多く、標準語とは全く別物でした。
「ワイハ!」 感嘆詞 喜びや驚き
「マエネ」 否定・拒否
あたりになるとドイツ語的発音です。
 
「烏城の甍」 中村勝彦 作

地の果て、恐山のイタコの霊おろしは、イントネーションからフランス語の様だともいわれます。
 なんだかインターナショナルになってきました。フフフ・・・。

 弘前は城下町だから、津軽の中でも静で柔らかで上品です。語尾に
「ねさー。ねはー。」
が付いてふんわりしますから、藤原さんもとろけたかもしれません。(?)

 黒石生まれ、弘前高女卒の私80婆さまは津軽を褒められると、おさとを認められたようで、本当に嬉しいのでございますよ。
へば またねさー。