子どもの頃は、とにかく毎日が忙しかったわ。
月曜日から金曜日までは、アメリカの学校に通学して、土曜日は日本の学校に行っていたの。 算数や漢字のドリルの宿題もあって覚える事がたくさんあった。
水曜日の放課後は、習字や生け花の習い事。 生け花の先生からは、着物の着付けも習ったので、今でも一人で着物を着られるわよ。
たまには、さぼったりもしたけれど、頑張ってかよい通したわ。
それは、父がいつもこう言っていたからなの。 「いずれ日本に帰国したら必要になるからね。今から覚えておいた方がいいよ。」
いつもは優しい父だけど、日本語の言葉づかいや挨拶には厳しかった。 でもそのおかげで、日本に帰国した今、極端に困ったことはまだ…ないわね。
中学校の3年間は、お琴を習ってた。
毎年、現地の日本人会のお祭りがあってね、そこで琴の演奏を聞いたの。 かっこよかった〜。 私も弾いてみたい。 それが琴との初めての出逢いだった。
教えてもらったのは、日本人のおばあちゃん先生。 竹を割ったような性格で、教え方も厳しかった。
何回も辞めようと思ったけれど、くやしくてできるまで練習して 次のお稽古にはできるようにして行ったの。
日本人会のお祭りにも、参加したわよ。
何を弾いたかですって?
「春の海」よ。 ほら、よくお正月になったらテレビから流れるゆるやかな琴の曲。
チャン、ララララララン。 っていう曲。 聞いたことない?
すごく練習したから、曲のさわりだけだったら、今でも弾けると思うわ。
おばあちゃん先生は、お元気かって?
実は、私が高校に進学した頃に先生は日本に帰国してしまったの。 クリスマスカードの交換はしていたので、日本に来日してすぐに会いに行ったわ。
私のことは、よく覚えてくださっていた。 「あなたは、よくがんばってお稽古にきていましたよね。 おさらいもきちんとしてました。 とても感心していましたよ。」
「先生。そんなうれしいこと…、初めて聞きました。 ありがとうございます。」
「すっかり大人になって…。どこから見ても、素敵なお嬢さんね。」
おばあちゃん先生は、現在、高校で顧問としてお琴を教えている。 自宅でもお稽古をしているとのこと。 「若い方たちと一緒にお稽古するのは大好きよ。」
今回びっくりしたことは、先生のお宅。 日本家屋の大豪邸で、お庭もすごく豪華。
美術館といってもいいくらい。 先生のご自宅は、あの原宿の道を一本隔てたところにあるのだけれど…。
おばあちゃん先生、あなた様はいったい何者ですか。
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