マギーが叔母さん宅で、留守番をしていたある日の午後。
リビングのソファーに横になってテレビを見ていたら、ベランダの外にフル装備の消防士が現れた。
クレーン車の先に箱がついているタイプの消防車に乗っている。
ポカーンとして見つめていたら、 「火事です。今すぐ逃げて下さい。」
マギー「えぇ〜。」
消防士「ベランダからこちらに移って下さい。救出します。」
マギー「は、はい。」 思わずスマホだけを握りしめて、消防車に乗り移った。
5階とはいえ、「箱」の消防車に乗って下まで降りるのは、ドキドキだ。
マンションの下には大勢の人がいて、皆、マギーを見上げている。 救急車も来ている。
無事、地上に着いたら、盛大な拍手をもらった。
マギー「よかった。助かった。ありがとうございます。」
消防士「はい。これに横になって〜。」
指を指されたのは、担架である。
マギー「あの〜。わたし、怪我はしていませんが〜。」 消防士「いいから、いいから、横になって下さい。」
首を傾げながらも、素直に従うマギー。
腕に腕章をつけた人が、そのようすを写真に撮っていた。
担架のまま、救急車に乗せられサイレンを鳴らして発車した。
左折を何回か繰り返した後、救急車は停車。 そしてドアが開いた。
んん? マンションの前?
消防士が、 「はい。お疲れ様でした。ご協力ありがとうございました。」
マギー「あっ、はい。」
消防士「はい。それでは、これで終了します。」
ここでマギーは、気づいた。
これは、消防の訓練だ。 そういえば、叔母さんが、そんなことをいっていた。
消防の訓練があるけれど、上の階の人が、選ばれて訓練に参加するから、何もしなくて大丈夫よ、って。
大丈夫なんかじゃな〜い。
その時のマギーは、 裸足、 部屋の鍵なし、 お財布なし、
マギー 「あの〜。もう一度、この消防車で部屋に戻して頂けませんか。」
消防士「いや、それは規則でできません。」
マギー「鍵を忘れたので、部屋に入れないんです。」
消防士「管理人室に、鍵、ありませんか?」
管理人室…。
聞いてみました。 保安上の観点から、今は鍵を預からなくなったとのこと。
頼みの綱は、叔母さんのみ。
ただ一つ、持って逃げたスマホで叔母さんに連絡をする。
叔母さんが帰るまで、管理人室で待たせてもらった。
管理人さんがいった。 あなたが、消防訓練で消防車や救急車に乗ったかたですか。
6階の自治会会長の奥さんが乗ると聞いていましたが、変更になったんですね。
区の広報担当が、取材にみえるといって、朝からきれいにお化粧して、張り切って準備されていましたが…。
うわ〜っ。
消防士さん、5階と6階を間違えたんだ。
後日、区の会報紙には、防災訓練の記事と担架に乗せられたマギーの写真が載っていた。
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