多田野 フー子
☆わたしはマギー
マギーは ロッカー?

                                                         
マギーが来日した当時、ちょっとしたストレスで顔に湿疹がでた。

かゆみに襲われ、我慢できずにかきむしったら肌がただれ、眉毛が抜けてしまった。

しかし日本の生活にも慣れてくると、湿疹も落ち着き皮膚もきれいに再生された。
そして眉毛も生えはじめてきた。

そんな頃の休日の電車。

車内はすいていた。
つり革につかまり、立っていると目の前の席の○園調布風マダムが、マギーの顔をまじまじと見つめて言った。

「あなた様はロッカー?」


「えっ?  」
「音楽のロックをやる、ロッカー?」  

「いいえ、違います。」

その日の格好は、ジーンズ、ハーフブーツにコート

これのどこがロックだ〜。
革ジャンすら着ていない。
鼻ピーもなし。(鼻ピーはパンクかしら?)

「眉をお描きになったほうが、よろしいですわよ。
あなた様のお顔、恐いですわ。」

えぇ〜。
この老婦人は、眉がないからロッカーだと思ったの?
そして、私の顔が恐いだと…。

恥ずかしさのあまり、顔が赤くなるのがわかる。

その日は、時間がなくて素っぴんだったのだ。

あぁ〜。消えてしまいたい。

…しばらくこの車輌に乗るのは、やめようと、強く思ったマギーだった。


それから数ヶ月後の休日、無意識に電車に乗って、つり革をつかもうとした時、何か嫌な予感がした。

座席に目がくぎづけになった。

下を向いているが、あの老マダムだ〜。

この場所から一刻も早く離れよう…。

少し離れたところ、ドアの近く、おじさんの隣が空いてる。

老マダムが自分に気づく前に座って、おとなしくスマホでも見ていよう。

さあ、早くしないと…、
マダムに気づかれる前に、急げいそげ…。

目標は、おじさんの隣。
着席完了!

と思ったら、いつもと座った感覚が違う…。

わぁぁ〜。
おじさんの膝の上に座っちゃった。

おじさんの表情は、見なくても想像できる。
驚きと困惑が入り雑じった顔だ。

きっとロッカーの老マダムも見ているだろう。

もうここには居られない。

まだドアはあいている。
今だ、脱出〜。
思わず電車を飛び出した。

通りすぎる電車を背中で感じ、一人赤面するマギーだった。


あぁ〜。
閉まるドアに、はさまれなくてホントよかった〜。