多田野 フー子
☆ハルさんの日常茶飯事
マフィアの親戚 その1


ハルさんの仕事場に流れる、いつもの平和な午後の時間。
そんな穏やかなひとときをかき乱したのは、ハルさんの娘、モナからの一本の電話。

電話?  いつもはメールなのに、どうしたのかしら。

ハルさん 「はい。もしもし。」
モナ 「お母さん?   交通事故がおきたんだけど…。
私?  私は大丈夫よ。
でも、もう〜、大変なのよ。迎えに来てくれる?  」

警察署にいるという、悲痛な声の娘のもとへすぐに向かった。


ハルさんの娘、モナの趣味はツーリング。
自転車で都内23区内はもちろん、多摩川沿いを走るのを楽しみとしている。
自転車といってもママチャリではない。
10スピードのギアチェンジができるもの。
スピードをかなり出せるので、ヘルメットを着用している。

その日は、最高のサイクリングびよりで、景色を楽しみながら、湾岸沿いをひた走っていた。

その日も、ご機嫌な一日で終わるはずだった。

街中に入りスピードダウン。信号はずっと先まで青だが、
急ぐわけではないので速度は徒歩よりわずかに速いくらい。

その時、横断歩道に男性が急に飛び出してきた。
信号は「赤」なのにだ。

モナは、かろうじて避けたが、自転車ごと転んでしまった。

肩と腕に激痛がはしった。
男性も道に倒れている。

「えっ?なんで…。自転車とは絶対に接触していないはずなのに…。」

横断歩道の信号が青に変わり、誰かが大丈夫ですか、と聞いてきた。

その場にいた見知らぬ女性が救急車を呼んでくれた。
その女性は警察にも通報し、名前と連絡先を警察に告げ、
必要であれば男性が、赤信号で飛び出したこと、自転車とは
接触していない証言をするといってくれた。

救急車はすぐに着いた。
倒れた男性も一緒に乗り、病院へ。
ひと通り診察を受けた後、モナとこの男性はパトカーに乗って警察署で事情聴取。

モナは、自転車保険に入っていた。
最近、自転車事故が多いので、ハルさんから加入を勧められていたのだ。

保険に加入していることを警察に伝え、保険会社にも連絡した。

道に飛び出したこの30歳くらいの男性(飛出さんと呼ぶことにする)は、妙に
交通事故の保険に詳しい。
警察官相手に、保障とか、保険の専門用語を延々と語っている。

この飛出さん、警察署でモナが記入した書類を勝手に見て
住所と連絡先をメモしていた。

「へぇ〜。成城に住んでるの? お金持ちだね。
俺、今日は、うなぎを食べたい気分なんだけど…。
怪我で何日か働けなくなるから、その間の給料を補償してほしいな。」


警察署内なのに、こんなのあり?
あぁ〜。自分一人では、たちうちできない。
お母さんに助けてもらおう。

警官もモナに同情的で、
「家族に来てもらったほうがいいね。」


ハルさんが警察署に着くまでの時間の長かったこと…。

やっとハルさんが到着した。

(つづく)
                                                        

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