うだるような暑い毎日。
女性専用車輌に乗り込んだハルさんの目の前には、大汗を拭きながら、 びっしりと汗で肌にはりついた黄なりの麻のブラウスの女性と ワンピースに厚手の毛糸の赤いカーディガンの女子。
どちらを見ても暑さが倍増してしまうので、涼しげな出来事を 脳内再生することにした。
昨年の冬は、毎週のようにスキー場に通いつめていたハルさん。 娘と娘の友人に誘われて、若い人達の仲間に入れてもらった。
学生時代にかなりスキーに凝っていたが、10年程前からスノーボードも はじめた。運動神経は良い方だったので、すぐにスキーと同じくらいに 滑れるようになった。
ランチタイムに合流する確認をして、初心者もいる娘達のグループと 別行動をすることにした。 派手なウェアーとゴーグルを身につけて頂上から一人で滑る。 美しい山の景色を堪能しながら、ひたすら下界をめざす。
何回か滑ったあと、スロープの途中でどちらのコースに行こうかと迷っている時、 後ろから声をかけられた。
「すみませ〜ん。」
ハルさん「はい。」
大学生くらいの男性のスノーボーダーが二人立っていた。
「お姉さん。スノボー、上手いですね。よかったら一緒に滑りませんか。」
「んんん?」 (こ、これってナンパ?)
ハルさんのいで立ちは、派手なダボダボのウェアーと帽子にゴーグル、 首から顔が半分すっぽり隠れるネックウォーマー。顔もスタイルもほとんどわからない。
(えっ、もしかして若い人と勘違いされている?)
後でがっかりされても、自分がつらくなるので、
「今日は、一人で滑りたい気分なの〜。じゃあね〜。」と、
その後は孟スピードで斜面を下るくだる。
娘達のグループとのランチもキャンセルして、お昼は非常用に持ち歩いているスニッ○ーズをリフトに乗りながらぱくり。
せっかく声をかけてくれた男子学生達と、カフェテリアでばったり 会いたくない自意識過剰のハルさんは、時間をずらして一人でランチ。
その日以降は、スキー場に行くたびに朝のうちからゲレンデや カフェテリアでなるべく素顔をさらし、実年齢がわかるように回りに アピールしたハルさん。
努力が功を奏したのか、その後、スノボーの上手いハルさんをナンパする 勇気のある人は現れて…いない。
|