多田野 フー子
☆ハルさんの日常茶飯事
ナンパ

                                                         
うだるような暑い毎日。

女性専用車輌に乗り込んだハルさんの目の前には、大汗を拭きながら、
びっしりと汗で肌にはりついた黄なりの麻のブラウスの女性と
ワンピースに厚手の毛糸の赤いカーディガンの女子。

どちらを見ても暑さが倍増してしまうので、涼しげな出来事を
脳内再生することにした。


昨年の冬は、毎週のようにスキー場に通いつめていたハルさん。
娘と娘の友人に誘われて、若い人達の仲間に入れてもらった。

学生時代にかなりスキーに凝っていたが、10年程前からスノーボードも
はじめた。運動神経は良い方だったので、すぐにスキーと同じくらいに
滑れるようになった。

ランチタイムに合流する確認をして、初心者もいる娘達のグループと
別行動をすることにした。
派手なウェアーとゴーグルを身につけて頂上から一人で滑る。
美しい山の景色を堪能しながら、ひたすら下界をめざす。

何回か滑ったあと、スロープの途中でどちらのコースに行こうかと迷っている時、
後ろから声をかけられた。

「すみませ〜ん。」

ハルさん「はい。」

大学生くらいの男性のスノーボーダーが二人立っていた。

「お姉さん。スノボー、上手いですね。よかったら一緒に滑りませんか。」

「んんん?」
(こ、これってナンパ?)

ハルさんのいで立ちは、派手なダボダボのウェアーと帽子にゴーグル、
首から顔が半分すっぽり隠れるネックウォーマー。顔もスタイルもほとんどわからない。

(えっ、もしかして若い人と勘違いされている?)

後でがっかりされても、自分がつらくなるので、

「今日は、一人で滑りたい気分なの〜。じゃあね〜。」と、

その後は孟スピードで斜面を下るくだる。

娘達のグループとのランチもキャンセルして、お昼は非常用に持ち歩いているスニッ○ーズをリフトに乗りながらぱくり。

せっかく声をかけてくれた男子学生達と、カフェテリアでばったり
会いたくない自意識過剰のハルさんは、時間をずらして一人でランチ。


その日以降は、スキー場に行くたびに朝のうちからゲレンデや
カフェテリアでなるべく素顔をさらし、実年齢がわかるように回りに
アピールしたハルさん。

努力が功を奏したのか、その後、スノボーの上手いハルさんをナンパする
勇気のある人は現れて…いない。


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