多田野 フー子
☆ハルさんの日常茶飯事
強いくじ運

                                                         
誘われたイベント事はだいたい断らないハルさんは、その日も
高尾山のハイキングに参加していた。

素晴らしい景色、茶店での食事、澄んだ空気。
なによりも気のおけない友人達との楽しい会話ですっかりリフレッシュ。

乗り換えの○川駅の百貨店でちょっとした買い物をしたら、福引券を1枚もらった。

1枚で1回引けるそうだ。
○川駅には、近々来る予定はなかったので、せっかくだから福引きをしていくことにした。

係の人にたった1枚の福引券を渡して、勢いよくハンドルを回した。
ポトリと出たのは「黄色の玉」。

一瞬の静寂の後、カランカランと鐘がなった。
「大当たり〜。おめでとうございます。3等です。」

ハルさん
「わ〜っ。うれしい。何かしら。」

係「こちらです。高級インスタント味噌汁です。」


お椀に入れてお湯を注ぐだけで高級料亭の味を堪能できると、
テレビでも宣伝しているあの味噌汁。
1個150〜200円はしそうなフリーズドライの味噌汁が、100個ほど
ビニールの袋にどっさり入っていた。

なぜか化粧箱には入ってなかった…が、味はCMで保証済み、
きっとうまい。


大きなビニール袋にドサッと入ったままの大量のインスタント味噌汁を
持って電車に乗り、打ち上げの銀座に移動。

お店に到着して美味しいビールで乾杯。

ハルさんは皆にお味噌汁のお裾分けならぬ「お福わけ」をした。
みんな楽しい気分のまま、その日はお開きとなった。



それからしばらくたったある週末、近くの商店街に娘と買い物に
来ていたハルさん。
手には5回分の福引券が握りしめられていた。
明日が福引きの最終日。
こんな日は、上位の当たりが出やすいと情報番組でやっていた。

長蛇の列に娘とならび、自分の番を待った。
娘「1等はグアム島旅行2名様。2等は一泊温泉旅行2名様だって〜。」

いやでも期待は高まる。
ハルさんの番だ。

福引きのハンドルを回す。
「白」
「白」
「白」
「白」

あぁ、これで最後。
勢いよく回した。

「金」

ハルさん「えぇっ〜。金色〜。」

カランカラン、カランカラン。大当たり〜。1等です。おめでとうございます。
回りからは、どよめきが起きた。

「お母さん、グアム島旅行よ〜。」

ハルさんはあまりの嬉しさと驚きで茫然としていた。
旅行の目録が渡され、説明があるまでは…。

名前と住所を聞かれた後、福引き係の人が、
「こちらが一等のグアム島旅行の目録です。出発は10日後、
お一人様5万8千円が必要です。それから…。」

ハルさん
「ちょ、ちょっと待って下さい。
1等はグアム島旅行のご招待ですよね?」

係「そうです。グアム島三泊四日旅行のご招待です。」

ハルさん「なのに出発日はもう決まっていて、一人5万8千円が必要なんですか。」

係「はい。その通りです。出発日は決まっていて変更できません。」

ハルさん
「…それは、招待ではなく優待というのではありませんか…。
申し訳ありませんが、平日に急に3日も休めないので、別な景品と
替えてもらえませんか。」

係「すみません。あいにく2等も3等も決まりまして、残っているのは
こちらです。」
と、指差した方向を目で追うとボックスに入ったティッシュペーパー5個。




帰り道に娘が言った。
「お母さんには、くじ運はあるのよ。
後は、それをどのタイミングで発揮するかよね。」

私もそれを知りたいわと、ティッシュペーパー5箱を握りしめ、
ため息をつくハルさん。

どなたかお教え頂けませんか、運を発揮する方法を。

お礼は、幸せな味の高級インスタント味噌汁の「お福わけ」ではいかがでしょうか。


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