朝の通勤時間帯。 ハルさんはいつもより少し早めの急行電車に乗っていた。
急行駅で人が大勢降りた後、何を思ったか60代後半の女性が
座っている人を一人づつ指さしをしだした。
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「まっさつ」 |
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「まっさつ」 |
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「まっさつ」 |
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(乗客に指をさしながら、沈黙の後)
「ん〜…考えとくわ」
「まっさつ」
「…考えとくわ」
と、端から端まで「抹殺」していくようである。
「あっ、次は私だ。なんて言われるんだろう。」
ハルさんは少しワクワク、ちょっとドキドキしてその時を待った。
しかし、その女性はハルさんを完全にスルー。
「えっ〜。素通り?
私は、抹殺すらされないの?」
端までの抹殺だけでは飽きたらないのか、その女性は、ドアの前で
参考書を読んでいた男子中学生の顔をわざわざ覗きこみに行った。
「あ〜、だめよ。だめ!」
言われた男子学生はキョトン。
抹殺レベルらしい。
不思議なことに、車内の乗客は、全くの無反応。
怒る人も騒ぎたてる人もいない。
「これって毎朝のルーティンなのかしら。」
バッグもなにも持っていないその女性は、終着駅に着いても
急ぐ様子もなく一番最後に車輌を優雅に降りていった。
まるで、「今日も電車の安全を守れたわ。」
っていいたげなようすで…。
いったい何なんでしょう。
世の中に理解できないことはまだまだ多い…と、
つぶやくハルさんだった。
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