多田野 フー子
☆ハルさんの日常茶飯事
当たり (後編)

                                                         
マンションの管理人さんからの電話で、自宅に工事中の街灯が倒れる事故を知ったハルさん。

勤務先から急いで帰り、管理人さんと一緒に部屋の被害を確認した。


スタンバイしていたガラス屋さんは、 
「窓枠ごと代えないとだめだね。今日は、段ボールで止めといてあげるよ。」  
同情したのか、 
「明日、サッシごと夜に直してあげるよ。
うちは、通常は18時までしか仕事しないんだけどね…。」 

 上から目線のうえ、恩を売られてしまった。 

事故の後処理でイライラしながらガラス屋さんと明日の段取りをしている時、 
「ピンポーン」と鳴った。
玄関を開けたら、作業服姿のおじいさんが立っていた。 

「この度(たんび)は、大変申し訳ございませんでした。」 と深々と頭を下げた。  
物腰がやわらかく、東北なまりがある。   

「窓(まんど)ガラスなど諸々の保障(ふぉしょう)につぎましては、明日、担当者が参りまして直接お詫びど  
今後のご相談をさせでいだだぎたいと思っております。」   

「はひふへほ」が「ふゃふぃふゅふぇふょ」に聞こえる。 

おお真面目に謝っているのだが、昔ばなしを聞いているかのように面白い。  

ハルさんは、悪いと思いながらも笑ってしまった。  

おじいさんは、 
「奥さんは大変明るいかだだ。
日本酒、お飲みになりますか。  
私の地元でとってもうまい地酒があるんですよ。
よがったらお送りさせでいだだぎますよ。  
こちらさまのご住所をうががってもよろしいですか。」   

うまい地酒には、心が動いたが丁重にお断りした。
 
このおじいさん、どうみても工事現場の責任者には見えないが、  
人を和ませる才能はピカ一。
なにか不測の事態が起きたときの対応要員かな?   

腹を立てていたのも忘れてしまったハルさんだった。


後日談がある。
この工事を請け負った会社、一週間後にまた事故を起こした。 

今度はコンビニの窓に街灯を突き刺したそうである。   
東北出身の人のよさそうなおじいさんは、また地酒を送るのかな。    

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