多田野 フー子
☆ハルさんの日常茶飯事
ビギナーズ ラック 《後編》


友人に誘われて競馬をすることになったハルさん。

馬券を買ったほうが、俄然真剣にレースを見れるという友人の
アドバイスにより馬券を購入し、初めてのレースを待っている
ハルさんである。


ハルさんの友人「私、馬券を買う上限は一日5,000円と決めているの」
ハルさん「私も、1レース100円、一日の上限は3,000円にするわ」

競馬新聞の見方もばっちり。ねらうは倍率(オッズ)の高い馬である。


しかし、高配当の馬は、なかなか勝ってくれない…。
ハルさんも全部ハズレである。ハルさんにとって、ほろ苦い
競馬デビューになった。


パドックを歩くある一頭に視線がいった。

他の馬はお行儀よく、歩いているのに、一頭だけ首を左右に振りながら歩いている。

ハルさん「ねぇ、あの馬、どう思う?」

友人「どうって…、馬体はつやがあっていいけれど、落ち着きがないわね。」

その馬にジョッキーが乗った瞬間、シャンと頭を上げて堂々と歩き始めた。


講師の方も言っていたっけ、パドックで目を引く馬に賭けるのもありだと…。

ハルさん「私、あの馬にするわ。オッズも高いし…。」

馬券を購入して、ドキドキしながらスタートをみつめる。

ゲートが開いた。
「ハルさんの馬」は、スタートがちょっと遅れた。コーナーを
曲がっても、後方のままだ。

ハルさん「やっぱり、だめだったかしら…。」

先頭を走っている馬の一団は、スタートから順番が変わらぬまま、
最後のコーナーにさしかかった。

心なしか、先頭集団のスピードが落ちたように思えた。
その時、するすると外側から突進してきた馬がいた。

あの落ち着きのない「ハルさんの馬」である。



その馬は、あれよあれよという間にスピードを上げて二頭、三頭……と抜き去りそのままトップでゴール。

ハルさん「キャー。やった、やった〜〜。
ありがと〜う。」
我をわすれて叫んでしまった。

ハルさんの100円の馬券は5,000円になった。

「5,000円も当たったから、これでやめるわ。あまり欲張ってもいけないし…。」とハルさん。



「お母さん。私は、まだ止めたくないわ。狙うはオッズの高い馬よ。」

ええっ?
と思った皆さん。
そうである。ハルさんの娘のモナも一緒に競馬場に来ていたのだ。

大学生の娘に競馬を勧めるなんて…。と、目をひそめたそこの方。
ごもっともです。

でも、どっぷり賭け事にはまるのは心配だが、親の監督のもと、
経験するのは社会勉強の一環として悪くないと思ったのである。

もちろん、ビギナーズセミナーも一緒に受けた。

モナ「これが最終レース。私は、8番を買ったわ。」


最終レースが始まった。

まわりが、すごい歓声でつつまれた。

…これで全敗したら、
「世の中、甘くない。もう賭け事はやめよう」って、娘が思って
くれたらいいな〜と、想いにふけっていると、隣の娘が急に大声を張り上げた。

「わぁ〜っ。見てみて〜。
勝ったわ。一等賞よ〜。8,200円だって。」

はぁ〜〜。
世の中、甘くないという教訓になるはずが、これではまったく
逆効果である。

でもまあ、ハルさんも5,000円勝ったことだし、ここはビギナーズラックに感謝することにしよう。

競馬の神様、ありがとう。
次回も欲張らずに100円券にします。

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