ハルさんの出勤日の一番のお楽しみは昼食時間。
いつもは、お弁当を持参するのだが、今日は以前からちょっと気になっているお店に行こうと決めていた。
そのお店は、カウンター席が窓側にずらりとあり、ハルさんのような
「おひとりさま」も気がねなく過ごせる。大きなテーブル席もいくつかあるので、10人のグループでも問題なく入れる。
ハルさんは、迷わずカウンター席にすわり、バラエティー満載の
メニューからエスニック風のランチ定食を選んだ。
一人でランチを待つ間、することといえばスマホのチェック…だが、今日は、本を持参した。
まもなく、5,6人の同僚らしきグループが入ってきて、ハルさんの後ろの テーブル席についた。
その中の一人が、 「家がフローリングなんですが、すごく寒くて足がちぎれそうなんです。 ホットカーペットかホットクッションを買おうかと迷っているんですが、 どっちがいいでしょうか?」
「えっ、山ちゃん。ホットクッションって何?
初めて聞いた。」
「厚手の生地のホットカーペットで大きさは60 x 60 cm。 ホットカーペットは一畳分の大きさで、両方とも同じ値段です。 どちらにしようか決めかねています。」
「俺だったら、家電を増やすより、問題の根本を見直して解決する方法を 選ぶけどね。たとえば、体質改善のために生姜入りの鍋料理を食べるとか…。」
「体質改善まで待てないくらい、部屋が寒いんです。」
「エアコンはあるの?」
「あります。電気ストーブもあります。
寒すぎて11月に買いました。
そうしたら電気代が1,100円から3,000円にあがったんです。使いすぎたようで…。
もっと安い暖房器具はないかと探しているところです。」
「冬のこの時期、3,000円は安いわよ。
うちは4人家族で電気代は、一万円超えてるわよ。」
「うちは子供二人の3人家族で6,000円。」
「私、家に帰ると30分だけエアコンをつけて、暖まったら布団にくるまっています。今は、電気ストーブもつけますが…。」
「上下水道料金もずっと基本料金です。電気代は、11月分まで1,100円くらいで、
12月分は、初めて3,000円を越えてしまいました。
11月まで、ガス代を含めて公共料金は4,000円代で収まっていたので、先月は使いすぎたと反省しています。」
「で、山ちゃん、洗濯機は、全自動なの?」
「そうです。全自動です。」
「二層式の洗濯機ってわけではないんだね。もしくは手洗いなんてこともないんだ…。」
「○ャープ の洗濯機です。内部は穴なしなので50リットル洗いだったら、使用する水は50リットルだけ。これは○ャープの特許だそうです。洗濯機を買うときにこれが決めてになりました。」
「へ〜。山ちゃん。しっかりしてるね。」
「山ちゃん。お風呂は、…水風呂?」
「いいえ。ちゃんと温かいお湯ですよ。でも、ほとんどシャワーです。 真夏の熱帯夜の時は水シャワーも浴びましたが…。」
「山ちゃん。電子レンジもってる?
掃除機は?
家電をいっぺんに 使うとヒューズが飛ぶことがあるけど。」
「大丈夫です。ヒューズが飛んだことはありません。でも、夜間の冷蔵庫は 電源を落とします。」
「えぇ〜。」 「うそ〜。」 「まさか〜。」
「うち、ワンルームなので、冷蔵庫がすぐそこにあるんです。 眠るときに蚊の泣くような音が気になって眠れなくて…。 で、冷蔵庫の電源をオフにしたら熟睡できるようになりました。」
「冷蔵庫は、ホテルに備え付けのような小型のもの?」
「いいえ。普通の大きさです。」
「冷蔵庫の中のものは大丈夫なの?
」
「大丈夫です。毎朝、冷凍室もチェックしますが、カチンカチンに 凍ったままです。夏も切っていましたが、不自由はありませんでした。」
「うそでしょう〜。夏も切るの。」 「ありえない〜。」
「冷蔵庫には何を入れてるの?」
「ヨーグルトと…調味料ですかね。牛乳も入れていましたが、お腹は 壊しませんでした。でも、腐りやすいものは買わないように気を つけていました。」
皆、無言。 「山ちゃん…。すごいね。」
この会話を後ろ向き(背中)で聞いていたハルさんは、持参した本に 集中できず、山ちゃんの同僚が発する言葉と同時におなじ反応で 目を見開いたり、うなづいたり「一人百面相」だった事はいうまでもない。
この山ちゃんにアドバイスをした人は、一人暮しの同僚の女性。
「ホットカーペットを勧めるわ。膝掛け代わりの毛布も忘れないで。
あっ、それとホットカーペットの下に熱を逃がさないシートを敷いてね。
100均で買えるから。これでこたつくらい温かいわよ。」
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