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ハルさんの娘、モナは自転車でサイクリング中、赤信号で飛び出して きた男性を避けようとして転び、怪我をした。 自転車にぶつかってもいないその男性だが、目撃者のおかげで モナに過失がないことがわかった。 だが、この男性(飛出さん)から自宅に電話がかかって来るようになったのである。 ハルさんは、週末に在宅の時は、なるべく飛出さんからの電話に出るようにした。 無視をしたら相手を刺激することになりはしないだろうかと心配だったからだ。 「こんにちは。飛出です。モナさんのお母さんですか? 別に用事はないんですけど…。俺、最近なんか身体がだるくって…。 モナさんの怪我は大丈夫かなって思って…。」 ハルさん「むすめ、だいじょーぶ。わたし、にほんご、わからない。 ほけんがいしゃ、でんわ、おねがいしま〜す。」 何をいわれても、 「ゴメンナサーイ。よくわからない。」で逃げ切った。 ある週末、つい油断して電話にでてしまった。 「はい。もしもし。○○でございます。」 「…あっ、もしもし、俺、飛出ですが、モナさんのお母さんですか。 ……日本語、上手になりましたね。」 ハルさん (あっ、しまった。どうしよう…。えぇい。どうとでもなれ〜。) 「私、手伝いのものでございます。」 「お手伝いさんですか。モナさん宅って、お金持ちなんですね。」 (困った…。お金持ちだと、勘違いさせてしまった。) 「いいえ、そんなことは、全くありません。 こんなこと、言ってはなんですが…、銀行の残高不足で公共料金の引き落としがされなかったらしいですよ。 (これは本当の話。 今回の事故や引っ越し先の物件探しで、入金を失念していた。)」 「えぇ〜。そうなんですか。一番先に止まるのが携帯電話、次が電気、ガスなんですよ。俺、経験しました。 でも、水道は止まったことなかったなぁ〜。」 ハルさん「そ、そうですか…(以外とご苦労されてるのね。)」 「大変だと思いますが、元気を出してがんばってと伝えて下さい。」 (えぇっ。まさかの展開…。励まされてしまった。) さらに数週間後のある日。 飛出さんからの電話。 ハルさんは、声色を作って電話に出た。 「はい。 ○○法律事務所でございます。」 「えぇっ、あの…、あの…モナさんのお宅ではありませんか。」 「いいえ。 こちらは、法律事務所でございます。」 「し、失礼しました。」 撃退した、と一瞬よろこんだが、電話が繋がらない場合、直接 訪ねてくる可能性もあると考え直し、かけ直してきた飛出さんの 電話に出ることにした。 「もしもし、モナさんのお宅ですか? あぁ、よかった。 俺、さっき、この電話番号にかけたら法律事務所につながったんですよ〜。 混線してたんですね。」 と、ハルさんにからかわれたなんて疑ってもいないようすである。 しかし、さすがのハルさんも度々の飛出さんからの電話には困惑していた。 モナの交通事故があったのはマンションの更新時期でもあり、 引っ越すことに即、決めた。 単身赴任中の夫からもハルさんが気にいった物件にしていいと言われている。 なんたって、家には年頃の娘がいるのだ。用心に越したことはない。 友人知人にもお願いし、毎日インターネットでも家を探した結果、2ヶ月後に条件に会った物件が見つかり、即刻契約、その週末に引っ越しした。 前回は住宅地だったが、今回は賑やかな街に住むことにした。 芸能人の出没情報も多い街である。 いわくつきの電話番号とも、めでたくご縁が切れた。 お巡りさんが言っていた通り3ヶ月後には飛出さんからの電話も なくなり、気がつけば、あの事故から3ヶ月半たっていた。 次のターゲットを見つけたのか、それともギャンブルでひとやま当てたのか…。 いろいろあったが、憎めないキャラクターだった。 飛出さんのご無事を祈りたい。 (おわり) |
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